この村にとどまる

久しぶりにクレスト本を読むような気がする。

惹かれたのは、ダム湖に沈んだ村。

ここには只見があり、ダムがある。

ダムの巨大な構造物に対する抗いがたい魅力をもつことはどうなのか。

ダムに沈んだ村に暮らしていた日とと実際に会話したことがあるのだが、その時は子どもだったので、よくわからなかった。親の顔の方がよく覚えているということだった。

ダムによって治水がすすみ、大きな災害は防げているのだと思う。

なので、ダムがメインの話かと思って読み始めたら、ムッソリーニとナチスの時代に翻弄された土地で暮らしていた女性が母の視点で娘に語りかけているものだった。

その娘も、最初は誘拐なのか、家出なのかよくわからなかったが、結局は自分の家族と暮らしていくことは、ムッソリーニの施策に反して地下にもぐってイタリア語教えることである、父親もまた村を離れることは選択肢にはない。2人の子どもたちが学校で肉体的に嫌な重いをしないよう、母親は家で子どもたちの勉強をみる。しかし、娘は外に出たかった。

結局、父親の姉夫婦と共に、村を離れたのだ。実の家族には内緒で。

親にしてみたらどんな思いになることか。

しかし、その親の苦しさを子どもがわかることはないのだ。

そして母親がまだ、娘だった時の苦い思い出も語られる。親友が流刑地行きになったこと。これも彼女のせいではない。けれど、友にももう会うことはない。

ダムの話よりも、いなくなった娘と親友の2人が残って、後半のダムにくだりに心が動かされなかった。

ムッソリーニやナチスの時代さえも乗りこえた先にあったのが、自分たちの家畜もすべて手放して、村が沈むことを受け入れることだとは。

どこまでも苦い話だった。